シアトルの最新サルメリア 『Bar Cotto』

今年2月にキャピトル・ヒルにオープンしたパルマ風サルメリア 『Bar Cotto』。オーナーは、いまや市内に7軒の店を展開し、料理本も出版し、マリナーズの本拠地セーフコ・フィールド内にも店を出し、メニューのコンサルティングまでやっている、イーサン・ストウェル

私がイーサンの存在を初めて知ったのは、彼が2003年にダウンタウンに 『Union』 というレストランをオープンしてから。飾り気のない人で話しやすく、日本からのメディアの取材にも快く応じてくれる、サービス精神も旺盛な人。それまでシアトルでは見なかった繊細な小皿料理をコースで楽しめるテイスティング・メニューにすっかりハマってファンになり、プライベートでも仕事でもよく行ったものです。その後イーサンは2~3年に1軒のペースで新しい店をオープンし、2010年に「これからの自分の方向性と違う」という理由で 『Union』 を閉店してから今年2月までに立て続けに3店舗を開店!シアトルでそれぞれ趣向が異なるレストランを約10軒展開しているトム・ダグラスに迫る勢い・・・と思ったら、トム・ダグラスの方が発展著しいサウス・レイク・ユニオンに新たに4軒をどどどっとオープンし、イーサンを引き離しました。ま、数が多ければいいってもんではないですが。

今のイーサンはイタリア料理一筋。経営する店もそれぞれ趣向が違うものの、すべてイタリア料理。昨年オープンした 『Rione XIII』 の料理は「食材にとことんこだわった、男の豪快な料理」のようで、私とはまだちょっと相容れない感じがしてますが・・・。

前置きが長くなりましたが、そのイーサンの最新の店がこの 『Bar Cotto』。


パルマ風のサルミを約10種類揃えているという、今まであったようでなかった店。パイオニア・スクエアには人気の老舗 『Salumi』 がありますが、昼間しかやってない上、超狭いので行列必至。食べたら出るという感じで、くつろげないのが残念です。

一方、『Bar Cotto』 は、キャピトル・ヒル南端の 15th Avenue という、わりと便利なロケーションにあり、席数は30席(バーも含む)。イーサンの3号店 『Anchovies & Olives』 と奥でつながっていてキッチンをシェアしていますが、それもこれもビルのオーナーが開店を勧めてくれ、資金も援助してくれたから実現したらしいです。前面がガラスばりで自然光が入り、ピザが焼 ける様子やプロシュートなどがスライスされる様子をオープンキッチンで見られて、シンプルながら居心地良し。野菜料理(Verdura と書いてあるカテゴリ)、ピザ(イーサンは、バラードに 『Ballard Pizza Company』 も展開してます)とブルスケッタもあるので、ワインを飲みながら、時間を気にせずだらだらおしゃべりするのにピッタリです。子育て中の身には、それもなかなか難しいですが・・・。


いろいろ食べた中で私がおいしいと思ったのは Prosciutto di Parma、Prosciutto di San Daniele、Salame Felino、Culatello、Spicy Coppa(メニューは頻繁に変わるそうです)。そのまま食べても極薄切りの肉がとろけそうだし、奥に写っているパンのような Torta Fritta と一緒に食べると、もー、すごくおいしい(涙)。さらに、イタリアのワイン NV Lini 910 Lambrusco Bianco を飲みながら食べると、あまり肉を食べない私でも止まらなくなりました。なのでブルスケッタとピザは無理して1種類試しただけで、あまり味わえず。ああ、胃袋がもう一つほしい。Torta Fritta は言わば揚げパンで、カリカリ+もっちりして、きつめの塩加減が肉と激しく合います。ついつい Torta Fritta だけいくつか食べてしまい、イーサンに「乗せて食べ て!」と言われてしまいました。ごめんごめん。

ちなみに、イーサンは料理界のアカデミー賞と言われるジェームズ・ビアード賞のノースウェスト部門で最優秀シェフにも4回ノミネートされたことがあり、今年もファイナリストの一人に名を連ねています(発表は5月3日~5日)。彼のご両親はダンサーとして活躍した後、1972年に創設されたシアトルのバレエ団 Pacific Northwest Ballet の初代芸術監督に就任し、1977年から2005年までその発展に貢献した方々。余談ですが、以前、イーサンが主役となったあるメディア・イベントに生後4ヵ月半の息子と出席しなければならなかった時、私の体の前にベビーキャリアでくっつけた状態の息子のずり上がってしまったパンツ(ズボン)を引っ張っておろしてくれたのは、横にすわっていたイーサンのご両親でした・・・。ありがたや。

「イーサンはダンスしなかったの?」と一度聞いてみたことがあります。すると、「やってみたけど、ジャンプできなかった」との答えが。本当かどうかわかりませんが、料理とレストラン経営にこれだけ情熱と才能があるなんてすごい。これからの展開がますます楽しみです。